【読書レビュー】かぞえきれない星の、その次の星/重松清
「笑いながら泣いてて、心の中では、もっと泣いてた。」
書店で見かけて、表紙と帯に惹かれて読んだ本です。
めちゃくちゃ素敵なキャッチコピーですよね。
あたたかい、でも少し切ない、きらきらしたお話がたくさん詰まっている本でした。
「かぞえきれない星の、その次の星」あらすじ
本書は、11の物語を一冊にまとめた短編集です。
大体、どの物語も20ページ前後(少し長めのものもありますが)で終わる話ばかりです。
あらすじはほんの少しにして収録作品を記載します。
こいのぼりのナイショの仕事
感染症が広まった日本。
希望ヶ丘のこいのぼり達が子供たちのために計画したこととは…?
ともしび
送り火で追い払われた虫を迎える谷間にある小さな農村。
きみたちは優しい。だから今日、この村にいる。
天の川の両岸
単身赴任でママや幼い娘と離れて暮らすパパ。
感染症の流行で大切だからこそ会えない、そんな状況の中、今日も娘とテレビ通話で画面越しに会話する。
送り火のあとで
今年も亡くなった「お母さん」を迎えるお盆がやってきた。
だけど、今年から我が家には新しい「ママ」がいる。
コスモス
日系ブラジル人三世のお母さんと日本人のお父さんの間に生まれた、ミックスルーツのリナ。
周りから「日本人っぽい」「日本人離れしてる」そんな言葉を投げかけられるたび、
今日も言葉の数だけ池に小石を投げる。
原っぱに汽車が停まる夜
夜にしか姿を現さない原っぱで、遊び道具もない原っぱで、
足元に影が伸びない子どもたちは楽しそうに追いかけっこをしていた。
かえる神社の年越し
「ひっくりかえる」にあやかって、この一年の「なかったことにしたい」願い事を託されたかえる神社のかえるたち。
ことしの願い事は、なんだろうか。
花一輪
鬼退治の名目でとある村に逗留した桃太郎一行。
鬼が棲むという島を目の前に、なかなか退治に向かわず村にとどまる理由は…。
ウメさんの初恋
介護施設で眠り続けるひいおばあちゃんのウメさん。
おばあちゃんが「ウメさんの初恋の人」と物置から出してきたのは、おひなさまの男びなだった。
こいのぼりのサイショの仕事
こいのぼりの「ナイショの仕事」をしたいけど、子どものこいのぼりはいつもお留守番。
僕たちだって、子どもたちのためにできることがしたいんだ。
かぞえきれない星の、その次の星
いつの間にか、ぼくは夜の砂漠に立っていた。
砂漠で出会った「おじさん」と、星空の中で話したこと、見つけたもの。
これまでの物語を繋げる、最後の物語。
「かぞえきれない星の、その次の星」はこんな人におすすめ
- 長編小説を読むのが苦手な人
- 小説をあまり読むのが慣れていない人(若い方にもオススメです)
- 人の感情に寄り添うような小説が読みたい人
- 日常のワンシーンを切り取るような物語が好きな人
「かぞえきれない星の、その次の星」おすすめポイント
一つ一つの物語がとても短いので、活字慣れをあまりしていない人でも読みやすいと思います。
私は大体20ページ程度の作品であれば、30分ほどで読めたので、通勤時間に読むのにもピッタリ。
また、難しい言葉をなるべく使わず書いてくれていたり、「こいのぼりのナイショの仕事」や「こいのぼりのサイショの仕事」では、トレンドワードが出てきたりもするので、クスッと笑える場面も出てきます。
レンゴク・キョウジュウロウやコチョウ・シノブという名前で子どものこいのぼりの2匹が呼び合っていたりします。
可愛いですよね。笑
現実世界のリアルな情景はしっかりとあるけれど、こいのぼりや蛙の置物がしゃべってみたり、急に砂漠に降り立ってみたり、星のかけらを集めてみたり…そんな幻想的な空間が絶妙にマッチして、ファンタジーな雰囲気もあります。
大人ももちろん楽しめますが、10代の学生さんでも、十分に楽しめる作品だと感じました。
「かぞえきれない星の、その次の星」読後レビュー
コロナ禍で暮らす人たちの苦悩と不安
「こいのぼりのナイショの仕事」を含め、コロナ禍に暮らす人々を題材にしている物語がいくつか出てきます。
日々の些細な出来事かもしれないですが、コロナ禍に不安や戸惑いを持つ人たちの一部を切り取った小さな物語は、浮世離れすることなく、同じ時を過ごした心の中に沁み込んできました。
日本中が感染を恐れ、さまざまな活動が制限されました。
息苦しいときを過ごしてきましたよね。
そんな中で頑張る人たちの日常は、決して派手ではないけれど、心に残りました。
ハッピーエンドがすべてじゃない
コロナ禍の話だけではありません。
差別というほどではないけど、ミックスルーツを理由に他の人とは少し違う目で見られて悩む少女の話、いじめの加担について考える話、亡くなった産みの母親と父親の再婚相手の間でかかわり方に戸惑う姉弟の話…
ちくちくと心を刺すような、影を落とすような、少し寂しい題材が多いです。
そしてどの作品も、必ずしもハッピーエンドで終わるわけではないんです。
ちょっと切ない終わり方をするんです。
ハッピーエンドであったとしても、どこか引っかかるような、あとを残すような、そんな作品がそろっています。
では、後味が悪いのか?と聞かれると、そんなこともなくて、どこかじんわりあたたかいような。
この感覚は、読んだ人じゃないと、伝わらないかもしれません。
一番のお気に入りは、「ウメさんの初恋」
短編集の中で一番心に残った作品は「ウメさんの初恋」でした。
今はもう寝たきりで話せなくなってしまったひいおばあちゃんのウメさん。
おばあちゃんとおひなさまを物置から出したことをきっかけに、ルーツをたどっていきます。
そこには、悲惨な戦時中の経験と、奇跡のような命のバトンがありました。
そして、その命のバトンがあったからこそ、今、自分がここにいる。
いまこの世に生を受けている人は、みんな命のバトンを受けついで、ここにいるんだということ。
物語を通じて、自分の亡き祖母や祖父、そして今も私を支えてくれる家族に想いを馳せるとともに、涙が止まりませんでした。
まとめ
若い人から大人まで、たくさんの方に読んでほしい短編集でした。
生きていて辛いこと、苦しいこと、まあ色々あります。
仕事でいやな思いをした、人間関係で悩みがたえない、お金の問題が消えない、子育てがしんどい…
人の数だけ、悩みがあって、しんどくて、生きるって大変だな、って思うこともあるかもしれません。
でも、そんな疲れた人の背中に優しく寄り添ってくれるような、暖かい作品でした。
リラックスできる空間であたたかいお茶なんか用意して、ゆったりと読んでほしいなと思います。